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120626 朝

 ベッドはそれはもうひっちゃかめっちゃかな状態で、それでも目覚ましだけはきちんとかけた昨晩、というか今朝方の自分を誉めてやりたい。悲鳴をあげる身体を奮い立たせて、ベッドから抜け出した。玄関で早々に押し倒されて二度、なしくずしのままバスルームで一度、更にリビングに移動したが、その先はもうどうやってベッドに辿り着いたのかすら覚えていない。こんな状態にした張本人はもうこの家にはいないが、いつものことなので特に気にはしなかった。
 明日は仕事だ、と言うといつも酷くされる、気がする。かといって言わないわけにもいかず、こんなボロボロの状態で仕事に行く朝がままある。いい加減慣れてしまったが、プロとしていかがなものかとは思っている。自分の力ではどうしようもないけれど。別に抵抗を諦めているつもりはないのだが、いつだったか青峰に「やだやだって、おまえいっつも口先だけだよな」と言われたことがある。もしかしたら本心はそうなのかも知れない。そもそも青峰に本気で逆らえるはずがないのだ。何の弱味を握られているわけではない、心を奪われてるだけだ。
 事後からそのまま放置された身体をシャワーで洗い流す。黄瀬にとって後処理は自分でするのが当たり前だった。サッパリした身体を恐々と鏡で見て、ふぅっと溜息をついた。1、2、3……ちょっと片手では数え切れない痕をファンデーションとコンシーラーで消していかなければいけない。今日は見えるところに噛み痕がないだけましだろうか。鋭利な歯で噛みつかれたくっきりした痕は、誤魔化すのになかなかテクニックが必要だ。その点鬱血痕なら上手く肌の色と同化させるだけでいい。こんなことばかり上手くなっていくなぁと自分でも呆れてしまうが、元凶を絶てる気はしない。デコルテがなるべく見えない衣装だといいなと祈りつつ、修正作業を終えた。涙の跡も上手く消せているし、よし、問題ない。あれだけ酷いことをされても朝は彼の顔が見たくなるのだから、自分もほとほと懲りないというか、どうしようもない。でも好きなのだ。家を出る今だって、今夜は会えるだろうか、と考えてしまう。

 仕事場でマネージャーに会って、十分くらいした頃だろうか。彼女の綺麗な眉が潜められて首を傾げる。
「どうしたんスか」
「ここ」
 苦々しげな声と共に指で髪の下に隠れた項を押された。すぐには意味が分からなかったが、すぐに心当たりを思い出してカッと頬に熱が集まる。咄嗟に片手で押さえたが、それで痕が消える訳じゃない。
「す、すみません……」
「後ろは写真に写らないから取り敢えずは平気だけど、気をつけてよね。スキャンダルだけはごめんよ」
「はい、すみません」
 後ろの方も目に見える範囲は確認したのだが、流石に真後ろは気付かなかった。嫌がらせなのか独占欲なのかを黄瀬に判断する術はない。でもせめて、後者であってくれればいいなとささやかに願う。
「えっと、消してもらえないっスか」
 ポーチからファンデーションとコンシーラーを取り出してマネージャーに渡すと、深く溜息を吐かれた。申し訳なさに身体が竦む。
「別れた方がいいんじゃない?」
「なんでそんなこというんスか!」
 友人二人から散々言われてることをマネージャーにまで言われて、悲しくて声が震えた。
「誰だって言いたくなると思うわよ。どんな相手だか知らないけど、あんたの様子を見てたらね」
 言い返す言葉がなくて、言葉に詰まる。しかし何と言われようと、黄瀬の頭の中に別れるという選択肢だけはなかった。
「でも好きなんスよ……」
 自分でも分かるくらいしょんぼりとした声が出た。マネージャーが先程よりも更に深い溜息を吐く。諦めと呆れを含んでいて、黒子の溜息と同じ種類だなぁと思い、黄瀬は一層悲しくなった。そりゃ青峰は無茶苦茶なところだってあるけど、いいところだってたくさんあるのだ。自分がそれを上手く伝えられないから、青峰との付き合いを反対される。黄瀬はわりと本気でそう思い込んでいた。彼女らの溜息はそれを知っているからこそのものであることを、黄瀬は分かっていない。

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