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1(120831)

 中身のないテレビ番組にも飽き、ソファから腰をあげたら、黄瀬にまだ寝ないでほしいと懇願された。なんでだよ、と口にしてからすぐに答えに気付いた。理由を言えなくて困り顔の黄瀬に笑いそうになるのを堪えて、分かったと再び腰を下ろすと、あからさまにほっとした顔をした。その時点で彼女の計画の半分はばれてしまった。

 

「青峰っち」

 例年通り、日付の変わるタイミングで黄瀬は俺の足の間に座り込んだ。大事な用があるときや甘えたいとき、こうやって足元にやって来る癖がある。昔に一度犬みたいだなと笑ったら怒られたが、一向に癖はなおる気配がない。

「誕生日おめでとうっス」

 黄瀬の向こうに見えるデジタル時計が零を並べると同時に言われた。誰より真っ先に言いたいらしい彼女は、数年前からこの時間を逃したことがない。差し出された包みを受け取って、早速開く。俺以上にわくわくして待っている黄瀬の姿が可笑しい。

「おっ、財布じゃん」

「どうっスか? 青峰っち今使ってるの古くなってきたから新しいの欲しいって言ってたでしょ」

「買いに行くの面倒だったから助かるけどよ、毎年おまえのプレゼントの値段があがってくのがこえぇ」

 財布は当然のようにブランドもので、きちんと俺の好みに適っている。だからこそ確実に数万はするだろう。去年は鍵をぞんざいに扱うからとキーケースを貰った。勿論ブランドものだった。

 中一からモデルをはじめてそれなりに稼いでいるが、特にこれといってお金を使っている様子はないので貯めこんでいるのだろう。しかしだからといって、中高生がプレゼントに選ぶような値段では到底ない。

「えー、でも今年は俺だってこれもらったし?」

 首にかかる鎖を黄瀬の細い指が引くと、胸元にはリングが現れた。誕生日に何が欲しいか聞いたら、指輪がほしい他のものならいらないと駄々をこねた黄瀬に、折衷案としてあげたリングネックレスだ。あげてから馬鹿みたいに肌身離さずつけている。

「おまえが強請ったんだろ」

「そうっスけどー、でもまさかほんとにくれるとは思わなかったっス。あとそれに、今年は……特別だから」

「特別って何が」

 頬をほんのり染めて特別と口にする黄瀬に首を傾げると、信じられないという顔をされた。誕生日に特別も何もあるものだろうか。

「ほんとに分かんないんスか!?」

「だから何が」

「十年!」

「は? あ、あー……まじか」

「まじっス」

 年数を言われて、ようやく黄瀬が何を特別と言っているのか理解した。十年、それは黄瀬がこの家に来て俺と過ごした年月だった。

 

 

 

 

 新設のプロバスケットチームに入団した一年目、偶然にも俺の誕生日はオフかつ土曜日だった。夜には昔の仲間と火神の家で飲む約束をしていたが、昼は何も予定がなかったので朝は悠々と寝ていた。その幸福を打ち破ったのはチャイムの音だった。無視を決め込もうとしたが、あまりにも続くので仕方なく玄関に出た。扉の向こうには、化粧の濃い女性と、金髪のガキがいた。身なりにお金がかかっているであろう女性とは対照的に、ガキの方は短い髪がぼさぼさで服も百均か何かのサイズの合っていないTシャツだ。

 俺が何か言うよりはやく、女が自ら名乗った。その名前に憶えはなく、首を傾げているうちに女は衝撃の一言を放った。

「あなたの子よ」

「……は?」

「だからしばらく引き取って。必要なものはここに入っているから」

「いや、ちょっと待て」

「じゃあ」

「待てって!」

 寝起きのまわらない頭でも、この事態がおかしいことだけは分かる。女は突き飛ばすように子供を俺に押し付け、小さなボストンバックを置いて扉を勢いよく閉めた。倒れそうになる子供を支えたせいで、女を捕まえることが出来なかった。急いで扉を開けれど、そこにはもう誰の姿もなかった。

「いや、いやいやいや……」

 子供は母親に置いていかれたにも関わらず、泣くでも喚くでもなく、ただ静かに立っていた。無表情な顔の中、口だけが笑みの形を作っていて妙に奇妙だ。

「あー……っと、おまえ、名前は?」

「きせ、りょう」

「黄瀬、な。あー、言っておくが、俺はおまえの父親じゃねえからな」

 多分、という部分はさすがに飲み込んだ。百パーセント違うと言い切れない自分の過去が憎らしい。

「しってる」

「へ」

「ぱぱ、まえ、とおく、いった」

 黄瀬の発音はそれなりにしっかりしていたが、単語でしか喋れないようだ。なけなしの想像力を発揮し、黄瀬の言ってることを考える。

「えーと、死んだってことか?」

 直接的な表現で確認すると、黄瀬はこくりと頷いた。俺が父親という可能性は極めて低くなったことに安堵する。

「あー……つかまじ、どうすれば……。黄瀬、おまえちょっとそこ座ってろ」

 いつまでも玄関にいても仕方ないので、リビングに移動して黄瀬をソファに座らせた。寝室から携帯を回収し、大して登録件数のないアドレス帳を開く。幼馴染と元相棒とどちらに頼るか少し悩んで、保育士をしている元相棒に電話をかけた。

「あ、テツか? おれおれ。……あ、あぁサンキュ。いやでもいまはそれどころじゃねえんだよ。何か突然子供が出来て……いや俺の子じゃなくてだな。俺にもわかんねえんだよ。だから……とにかく来い、いや来て下さいまじで。ああ……おう、たのむ」

 まだ頭が混乱していて、ろくな現状説明を出来なかった。しかし彼ならおそらく何とかしてくれるだろう。

「ちょっと待ってろよ。いまおまえの面倒見てくれるやつがくるから」

 大人しく一つ頷いた頭を撫でた。

 

 同じマンションの違う階に火神と住んでいる黒子は、火神まで連れてすぐにやってきた。火神は同じチームに所属しているから、普段から散々顔を合わせている。

「テツ! 火神、てめえは呼んでねえぞ」

「おまえの子供が見られると聞いてな」

「いやだからちげえって」

「違って、それでどういうことなんですか」

 玄関先で、先程の出来事を二人に話した。あまりに情報の少ない話に、二人は首を傾げた。俺だって何が何だかさっぱり分かっていないのだから、当然だ。

「とりあえず、子供に会っていいですか」

「おう、中にいる」

 黒子を先頭にリビングに戻ると、黄瀬は行儀よくソファに座ったままだった。黒子が黄瀬に近付いて、しゃがんで目線を合わせてから口をひらいた。

「はじめまして、黄瀬くん。ぼくは黒子といいます」

「くろ、こ」

「そう。そしてあれが青峰くんで、その隣が火神くん」

「あお、みね……か、がみ……」

「今すぐ覚えなくてもいいですよ。黄瀬くんにいくつか聞きたいことがあるんですが、いいですか?」

 黒子が尋ねると、黄瀬は頷いた。黄瀬は聞けば答えるが、それ以外は頷いてばかりだ。

「ありがとうございます。まず黄瀬くんは何歳ですか?」

「ろく」

「六歳ですか。誕生日は分かりますか?」

「ろくがつ、じゅうはちにち」

 さすが現役保育士、黒子は着々と黄瀬から情報を引き出していった。何を聞けばいいかすら分からなかった俺とは大違いだ。

「六月十八日、ということはちょっと前ですから、年長さんですね。ママとは、今までは一緒にいましたか?」

「ママ、おいてく。ここ、あたらしいとこ。むかし、一緒」

「そうですか。じゃあ、どこにおいていかれましたか?」

「いろいろ。しらないとこ、ばっか」

「知らないところは不安でしょう。今も泣かないで偉いですね」

 黒子が優しく黄瀬の頭を撫でると、黄瀬はふるふると首を横に振った。

「へいき」

「黄瀬くんは強い子ですね。でも、もう我慢はしなくていいんですよ」

 言葉の意味が分からなかったのか、黄瀬はきょとんとしていた。その反応に黒子は悲しそうな顔をして、次の質問をした。

「ちょっとだけ、身体をさわってもいいですか?」

 黄瀬が頷くのをしっかり確認して、黒子は黄瀬の着ているのびたシャツを捲り上げた。俺も火神もその行動にぎょっとしたが、黒子は真剣に前と後ろの白い肌を確認していた。次に、黄瀬の細い身体を持ち上げて、しばしその状態で考えるような仕草を見せた。

「ありがとうございます。お昼の時間だからおなかが減ったでしょう。何か食べたいものはありますか?」

「なんでも」

「何でも食べられるなんて、いい子ですね。食べる前にシャワーを浴びましょうか。髪を洗ってあげます。でももうちょっと待っていて下さいね」

 リビングの入り口で突っ立って見ていた俺達の元に黒子は戻ってきた。

「とりあえず、身体に虐待の跡は見られなかったので安心しました。でも身長のわりに体重が足りてません。母親はあちこちに黄瀬くんを預けてまわっているようです。詳しいことは、緑間くんにでも頼んで調べてもらいましょう。騒いでも仕方ないですから、とにかく今は彼のためになることを考えます。というわけで火神くん、あたたかくて栄養価があって食べやすい料理を作って下さい。なるべく固形食じゃなくて一つにまとまっている方がいいです」

「お、おう、任せろ」

 緑間は弁護士になるために院で勉強している。すでに弁護士事務所でもバイトをしており、揉め事をおこしたら相談にのってやるのだよと笑われていたが、まさかこんなに早く頼ることになるとは思いもしなかった。

「そして青峰くん、もう一度確認したいんですが」

「んだよ」

 真剣な黒子の表情に気圧され、思わず一歩後ずさりそうになった。あまりいい予感がしない。

「本当に青峰くんの子供じゃないんですね? 彼は今年、六歳になったそうですが」

「ちげーって。それに六歳になったからなんだってんだよ」

「計算してみて下さい。青峰くんは今日二十三歳になりました。つまり黄瀬くんと十七歳差です。ということは、黄瀬くんが生まれたとき、青峰くんは十七、高二でした」

「だから何だよ」

「黄瀬くんの誕生日は六月十八日です。そして、子供は十ヶ月弱で生まれてきます。こんな計算をするのは非常に嫌ですが、高二の六月十八日から十ヶ月戻ってみて下さい」

 指折り数えて、ようやく黒子が何を言いたいのかを理解した。心当たりが全くないと言い切るには辛い答えが導き出されてしまった。

「高一の……八月」

「そうです。高一の夏頃、というかウィンターカップまで、青峰くんは荒れてましたよね。本当に絶対に違うと言い切れるんですか? 相手の名前に本当に憶えはないんですか?」

「んなこと言ったって、一々ヤった相手の名前なんか覚えてねー……んな目で見んな、傷つくだろ」

「傷つくくらいでいいんです、君は」

「ひでえな」

 黒子の冷たすぎる視線を受け止め、それでも必死に昔の記憶を思い出そうと頭を捻った。しかしバスケ以外の記憶はまるで覚えがない。

「何でもいいから思い出せるよう頑張って下さい。それと桃井さんあたりに、子供服を買ってくるようお願いして下さい。サイズは……百二十か三十……細いから百二十ですかね。ぼくは黄瀬くんを洗って来ます」

「おー」

 桃井に連絡し、怒鳴られながらも何とか服を買ってきてもらうよう頼んだ。それから何やらスープを作りはじめた火神を横目で見つつ、諦め半分に記憶を辿るも、どうにもこうにも無理そうだ。さして時間がたたないうちに、何故か黒子だけリビングに戻ってきた。

「ん、どうした?」

「どうしたもこうしたも……青峰くん、性別くらい確認しておいて下さい」

「は?」

「黄瀬りょう『くん』じゃなくて、りょう『ちゃん』でしたよ」

「……はあぁ!?」

 驚きで叫んだのは俺だけではなかった。黄瀬の髪はすごく短くて、服も適当だったから、てっきり男子だと思い込んでいた。名前だって、音だけではどちらか分からない。むしろどちらかといえば男子だ。

「そういえば玄関に置かれていたんですが、このカバンは何ですか?」

「あ、それ黄瀬の母親が置いてったやつだわ」

「……何でそれをもっと早く、いえ、ここで怒っても仕方ないですね。開けますよ」

「おう」

 中にはお金の入った郵便通帳、通帳の暗号を書いた紙、保険証、歯磨きセット、最低限と思われる下着と安っぽい服が入っていた。通帳にはそれなりの額が入っており、どうやら毎月一定の振込があるようだ。今までにも何度か引き出された記載がある。おそらく多くが預けられた者の手によってだろう。

「つうか、あいつどうすればいいんだよ」

「青峰くんが預かったんだから、育てるしかないでしょう」

「預かったんじゃなくて押し付けられたんだ。大体母親はいつ戻ってくんだよ。こういうのって警察に行くんじゃねえの?」

「行ってどうするんですか? 俺の子供じゃないと思うから引き取ってほしい?」

「ぐっ……じゃあ孤児院とか」

「いまは孤児院じゃなくて児童養護施設ですよ。けれど施設を必要とする児童はいま増え続けていて、そう簡単には入れません。それにいいところと悪いところ、学校と同じでピンキリなんです」

「……俺は子育てなんてできねえぞ」

「六歳ですし、お風呂も聞いたら一人で入れるそうですから物凄く手間がかかるということはないですよ。ぼくもサポートしますから」

「じゃあテツが育てればいいじゃねえか」

「青峰くん」

 うっかり黒子の説教スイッチを踏んでしまったことに、冷ややかでいて単調な声を返されて気付いた。大人しく返事をする以外の選択肢がない。

「……はい」

「君は全く思い出せないようですが、君と黄瀬くんの母親の間に何かしらの関係があったことは確かでしょう。つまりこれは、君が蒔いた種で自業自得なんです。今だって、君の女性関係は感心しません。黄瀬くんの面倒を見ることで、少しくらい大人しくなって下さい。……勿論、君が黄瀬くんを育てるのに相応しくないと思ったら止めます。でも存外、上手くいくような気もしていますよ、ぼくは」

「根拠は」

「ないです」

「あてになんねえなぁ」

 溜息を吐くと、黒子は静かに笑った。取りあえず家に置くことにしたことを察したのだろう。

「それにしても、驚きの誕生日プレゼントですね」

「プレゼントとは言えねえだろ」

「それは今後の青峰くん次第でしょう。ただしくれぐれも手は出さないで下さいよ」

「出さねえよ!」

 俺次第ならきっとプレゼントにはなんねえな、と心の中で思った。キッチンからはオニオングラタンスープの香ばしい匂いが漂って来ている。

 

 

 

 

 俺は思った通り、子育てには向いていなかった。しかし黄瀬は、育てられないことに慣れきってしまっていた。だから幸か不幸か、俺と黄瀬は上手くいってしまった。

 三十年とちょっと生きてきて、あれをこえる衝撃的な誕生日プレゼントは未だない。おそらく今後もないだろうし、そもそもプレゼントと言うのも未だはばかられる。

 バスケの試合を黒子と見に来たら黄瀬が急に懐いて、自然に笑うようになって、よく喋るようになって、泣けるようになって、バスケをして、喧嘩もして、引っ越して、黄瀬の母親が押しかけて来て――……十年間で色々あったはずだが、これといって思い出せることは多くない。それほどの月日が経ってしまった。

「思い返せば、長いような短いような」

「十分長いっス! ね、だからもういいでしょ?」

「何が」

「だーかーらー、結婚!」

 俺の足に腕を置いて、膝立ちの姿勢で黄瀬が詰め寄ってきた。離れようと背をそらしても、後ろにはソファの背もたれがある。

「……おまえまだそんなこと言ってんのかよ」

 黄瀬が誕生日に指輪を欲しいと強請ったときも、本当は婚約指輪を欲しがっていた。ネックレスで有耶無耶にして、それ以来大人しくなったと思ったらこれだ。普段は滅多に我侭を言わず家のことをしてくれる所謂いい子だが、一度言い出すとなかなかしつこいので面倒くさい。昔なら確実に舌打ちをしていた場面だ。

「そんなことじゃないっス! 俺もう十六で結婚できる歳っスよ」

「未成年の結婚は親の許可がいるだろ」

「そういうことを言ってるんじゃないっス。別に今すぐ結婚したいってわけじゃないから、婚約でもいいし」

「いいか黄瀬、結婚っつーのは、愛し合った二人がするもんなんだぞ」

「青峰っちの口から言われても説得力ないし、愛のない結婚だって世の中にはいっぱいあるっスよ。十年間一緒だったんだから今後一緒でもいいじゃないスか。それに青峰っち、俺がいなくなったら困るっしょ?」

 家事は必要最低限のことしかやらなかった俺を見かねて、黄瀬は小学校に入った頃から料理を火神に習いはじめた。そして持ち前の器用さを発揮し、それから一年経った頃には家事の全てを黄瀬がやるようになった。それがなければきっと俺は途中で黄瀬の育成を投げ出していたことだろう。今や家計すら黄瀬任せだ。黄瀬のいない生活は容易には想像できなかったが、いなくても生活できていたのだから何とかはなるだろう。

「別におまえがいなくなったら他に良い奴見つけてやってもらうし」

「青峰っちみたいな傍若無人を相手に出来るのなんて俺くらいっスよ。それに、俺が高校入ってから全然女性連れ込まなくなったじゃないスか」

「それは……俺も落ち着いたんだよ」

 おまえが黒子に愚痴ったからだろ、とは言いにくかった。黄瀬が家に来てから多少回数は減ったものの、部屋に女性を連れ込むことは珍しくなかった。勿論黄瀬のいないときを狙っていたが、それでも稀に鉢合わせしていた。女の方は決まって激怒して出て行くが、それはどうでもいい。歳を重ねるにつれて変わる黄瀬の反応の方が面倒くさかった。どうにかしようとは思っていた頃、黄瀬が黒子に愚痴って、俺は黒子に怒られた。黒子か桃井に泣き付けば大抵のことは何とかなると、黄瀬は知っているのだ。それでも長いこと泣き付かなかったのは、おそらく黄瀬の意地だろう。だからそれを機会に、部屋に連れ込むことだけはやめた。

「へー?」

「つか、おまえは俺と結婚しようがしなかろうが当分は出て行く気ねぇだろうが。なんでそんな結婚してえんだよ」

 女性関係のことになるとどうやっても俺の立場が悪いので、話をそらした。適当なことを言っただけだったが、黄瀬はぱっと顔を赤くして俯いた。

「あ、青峰っちに……」

「俺に?」

「だかれたい」

 たった五文字の言葉を理解するのにかなりの時間がかかって、理解した瞬間には吹きそうになった。好きで抱かれたいから結婚したいとは、随分ぶっとんだ話だ。

「なに馬鹿なこと言ってんだ」

「馬鹿ってなんスか! 抱きしめてもらいたいし、キスされたい……好きな人相手にそう思うのは普通じゃないスか」

「大体おまえはもうっつーけど、まだ十六だろ」

「じゃあ青峰っちのはじめてはいつなんスか」

 それを言われては押し黙るしかなかった。余裕で今の黄瀬より若いときだし、黄瀬の年齢くらいには性行為が特別なものではなくなって遊ぶようになった。そしてその因果応報で黄瀬がうちに来ることになったのだが。

「何でだめなんスか。俺のことそんなに嫌い? 胸がおっきくないから? 顔が好みじゃない?」

「十七も下で、しかも仮にも育てた奴に欲情するわけねえだろ。大体おまえは、俺が好きの一点張りでろくに恋愛したこともねえお子様だし」

「だって好きなもんは好きなんスよ……」

「黄瀬」

 泣きそうな顔の黄瀬の名前を呼んで、腋に手を入れて子供のように抱え上げそのまま膝の上に乗せる。

「青峰っち?」

 きょとんとしている黄瀬の顎をとる。顔を近づけると、黄瀬は大袈裟なほど強く目を瞑った。長い蜂蜜色の睫毛が震えていて、その初々しさに笑いそうになる。期待に閉ざされる赤い唇ではなく、白い鼻に噛みついた。

「ひゃっ」

 予想と違わぬ反応に、喉の奥で笑う。やはりまだまだ子供だ。

「十年はえぇんだよ、ガキ」

 勝ち誇った顔で言えば、濡れた目で睨まれた。十年後の未来は、まだ見えない。

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