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130209 「花に嵐のたとえもあるぞ さよならだけが人生だ」(赤黄)
途中入部した黄瀬は、通常のルールにならって一番下から這い上がらねばならない。物足りないと感じてしまう練習だが、今は我慢するしかない。パス練で相手が見当違いの方向に投げたボールを黄瀬が追っていくと、追いつくよりも早く他の人の手によって拾い上げた。
「あっ、すみませ……」
ボールを手にした人物の顔を認識して、思わず黄瀬の語尾は小さくなった。赤い髪の少年は、黄瀬がバスケ部に入りたいと乞うたときに、黄瀬を見定めた人だ。柔らかいともきついともいえない表情は、黄瀬に掴みどころのない印象を与えた。未だ未知数の相手と対面して、黄瀬は僅かに身体が強張った。とにかくボールをもらおうと両手を伸ばすが、少年がパスをくれる様子はない。
「あの、ボール」
「おまえは、人生を何と心得る?」
「は?」
唐突に与えられた質問に、黄瀬はポカンと口を開けた。ボールと少年の顔を見比べる。少年は至って真顔で、切れ長の美しい瞳が黄瀬を射抜いていた。答えないとボールを返してもらえなさそうなことだけは、黄瀬にも理解できる。ない頭を捻って、少年の質問の答えを探った。たかだか十三年しか生きていない人生を振り返って、ふとどこかで聞いたフレーズが頭をよぎった。それは黄瀬にとって一番しっくりきたものだった。
「さよなら、っスかね」
「なるほど。悪くない」
黄瀬の答えを聞いてはじめて、少年は無表情を崩し口の端を吊り上げた。ボールを返され、反射的に礼の言葉を述べる。そのまま少年は背を向けて体育館から去っていった。一体何だったのか、今のやりとりに何の意味があったのか、黄瀬にはさっぱり分からない。でも、困惑こそしたものの、嫌いではなかった。
彼と黄瀬がまともに対面するのは、もう二週間ほど先のことになる。
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