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130209 帝光青黄♀

 あ、まただ。何度目かのむずがゆさに密かに黄瀬は眉を潜め、シャツの肩に手を伸ばした。肩からずり落ちた紐を、なるべく不自然に見えないように元の位置に戻す。本当ならばアジャスターそのものを直したいけれど、今はそういう訳にもいかない。

「どうかしたか?」

「 へ? 何がっスか?」

「肩、さっきからやたら触ってんだろ」

 片手でボールをつきながら、青峰は空いている手で自らの肩を指差した。気付かれていた恥ずかしさに、黄瀬の頬に熱が集まる。

「どっか痛めたか?」

 あまつさえ青峰が肩に触れようとするものだから、黄瀬は慌てて身をひいた。あらゆる気まずさを誤魔化すように、常より大きな声をあげた。

「なんともないっスよ! 大丈夫だから、青峰っち、もっかいしよ!」

 青峰はやや訝しげな顔をしたが、黄瀬が肩をぐるぐる回して見せると、了承してボールを放った。無駄な観察眼を発揮しないでほしいけれど、何をしていたか気付かれていないだけまだマシだろうか。

 数度目になるワンオンワンの最中、また肩紐がずれた。でもそちらに気を取られている暇はない。いまの黄瀬にとって注意すべきは目の前の青峰の動きのみだ。

 黄瀬の腕を避けて宙に伸びた青峰の腕とボールを、負けじと追いかける。近距離の競り合いになると身長差のせいで不利だったが、ここで引く訳にはいかない。体重をかける勢いであたる黄瀬をものともせず、崩れた体勢から青峰のシュートが決まる……はずだった。青峰の視界に黄瀬の右肩さえ入らなければ。

「あ」

「え?」

 青峰の呟きが耳に届くと同時に、黄瀬が体重をかけた方向に青峰の身体諸共、崩れ落ちた。青峰の手から離れたボールが、てんてんと体育館の床を跳ねて転がっていく。

「ったぁ……ちょ、どうしたんスか」

 二人とも受身をとったし、黄瀬は青峰をクッションにしたから大した痛みはない。しかし、青峰にしてはあり得ないミスだ。上体を起こしながら心配した黄瀬が尋ねるも、頭をはたかれた。

「いった! 何するんスか!?」

「うっせぇ! おまえのせいだ!」

「はぁ!? 意味分かんないっス!」

 身体をぶつけて競り合ったからでないことは黄瀬にだって分かる。青峰が押し負けるなんてあり得ない。だからこそ、何故自分のせいにされるのか分からない。青峰は怒ったような、それでいて何かを誤魔化したいような顔をしている。

「うるせぇ。あー、くそ、肩はそういうことかよ」

 ぶつぶつ何か呟く青峰に首を傾げつつ、黄瀬は立ち上がった。体勢を戻すことで、違和感を思い出す。ハッとして右肩を押さえたけれど、もう遅い。ずれるどころか完全に肩から落ちたレースに縁取られたストラップが、短いTシャツの袖から覗いている。

「あ、あー! 青峰っち見たでしょ!?」

「ふざけんな、おまえが見せたんだろ」

「違うっス! 青峰っちのバカ!」

 腹立たしさに任せて、近くにあったバスケットボールを力いっぱい投げつけた。それでも彼の相棒に劣る力のボールは、当然のようにキャッチされてしまう。そのまま腕が弧を描いて、ゴールへボールが吸い込まれる。

「はい俺の勝ち」

「あっ、ズルい! 今のはなしっス! もっかい!」

「やんねぇ。帰る」

 引きとめようと騒ぐ黄瀬を無視すべく、青峰は背を向けた。短い髪の隙間から見える耳が、仄かに色付いていたことに、黄瀬は気付いていない。

 

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