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110923 好きな理由をお答えします(龍♂折♀)

 一番はじめは確か、スカイハイさんと折紙さんと3人でたわいもない話をしていたときだったと思う。スカイハイさんが何か面白いことを言って、それに2人で笑った。そのときにみた笑顔がすごくかわいくて、ふわふわとゆれるプラチナブランドの髪やおかしそうに細められるアメジスト色の瞳をもっと見たいと思った。それからちょくちょく折紙さんにちょっかいをかけるようになったけど、彼女はいつもその小さな身体を竦ませるばかりで、笑顔を向けてくれることは滅多になかった。それでもほんの少しずつ折紙さんの緊張が解れていくのが嬉しくて声をかけ続けていた。
 ある日、いつもと同じように折紙さんにほぼ一方的に話しかけていたら、いつもは戸惑いを浮かべて黙っているだけの彼女がおずおずと口を開いた。
「あの……どうしてキッドさんはそんなに、ぼくなんかにかまってくれるの……?」
「どうしてって、好きだからだけど?」
「えっ」
 折紙さんにしては大きめな声と共に、ぽんっという音が聞こえてきそうなほど一瞬で彼女の顔が真っ赤に染まった。
「あれ、言ってなかったっけ?」
 耳まで茹だったように赤くした彼女は、言葉もなくただ首を横にふるふると振った。その動作が小動物のようでかわいい。彼女のことを好きだと自覚してからすっかり伝えたような気になっていたけれど、実際は自己完結していたらしい。

 それ以来、彼女にどことなく避けられている。今まではおずおずとでも2人きりで話してくれていたのに、最近の彼女はそんな状況を避けるようになんとなくヒーローが集まっているところにばかりいる。そこにぼくが加わっても逃げないけど、2人きりになる前にはさっと消えてしまう。
 今日だってトレーニングを終えてタイガーやバーナビーさんと一緒に折紙さんが話していたところに加わろうとしたら、それを察知した折紙さんはさっとトレーニングルームから出て行ってしまった。今日こそは逃がすまいと急いでそれを追いかける。
 トレーニングルームを出て左右を確認すれば、自販機コーナーへぴゃっと引っ込む小さな頭が見えた。それを追って自販機コーナーに来たが、そこに折紙さんの姿はない。よくよく周囲を観察すると、休憩用ベンチの下でまるまる猫を見つけた。ベンチを覗き込むようにすれば、目のあった猫がびくりと身体を震わせた。手をのばし、精一杯身をよじる猫を無理矢理抱きかかえ、そのままベンチに腰をおろした。
「つーかまーえたっ」
 びくびくと毛並みを逆立てる猫を抱き上げて目線を合わせる。薄い色の毛並みに隠れる目はきらきらとしたアメジストだ。
「折紙さん、何で逃げるの?」
 聞いても答えようとはしてくれず、猫の小さな頭がふるふると横に振られる。
「ねぇ、元に戻ってよ。ぼくは折紙さんと話がしたいんだ。別に逃げたこと怒ってないから」
 宥めるように猫の背を撫でれば、瞳が少し伏せられた後、薄い毛並が青く発光した。元の姿に戻った折紙さんを膝の上から取り逃がさないように腰にきつく腕を回す。ぼくよりやや高い位置にある顔を見上げると、折紙さんの顔は既に赤く染まっていた。
「キッドさん、放して……」
「やだよ。放したら折紙さんまたどっか行っちゃうじゃん」
「もう逃げないから」
「ほんとに?」
「本当に」
 折紙さんがあまりにも必死にこくこくと首を縦にふるので、出口から遠い側の僕の隣に下ろしてあげた。折紙さんがほっと息をつく。
「で、何で逃げるの?」
「そっ、それは……、だって、キッドさんが、ぼくのこと、すっ、すすす、」
「好き?」
 壊れたスピーカーのように同じ文字を何度も言うものだから、見かねて助け舟を出してあげた。その単語に折紙さんはよりいっそう顔を赤く染めながらこくこくと頷く。
「そう、言うから」
「なんで? 好きって言っちゃいけなかった?」
「いけない、っていうか、信じられなくて」
「ぼくが、折紙さんのことを、好きってことを?」
 こんなにアピールしているのに、まさか信じられていないとは思わなかった。驚いて、思わず折紙さんと同じように単語を切って聞き返してしまった。折紙さんは神妙な面持ちで肯いている。
「どうして信じられない?」
「だ、だってぼくなんて好きになってもらえるようなところなんてないし……最下位で見切れてるだけだし役に立たない能力だし顔だって普通だし、その、胸だって別に大きくないし……」
 一番最後の言葉を言うときに折紙さんは茹蛸のように真っ赤で、僅かに震える手でトレーニングウェアのズボンをぎゅっと握りしめていた。
「ぼくは折紙さんが影ですごく頑張ってるの知ってるし、そんな姿がかわいいと思うし、勿論顔だって――笑ったときの顔がかわいくて、ぼくすごく好きだな」
 胸だってブルーローズさんよりよっぽどあるし、という台詞は心の中だけにとどめておいた。
 顔を覗き込みながらにっこりと微笑めば、折紙さんはとうとう顔を両手で覆ってしまった。真っ赤にそまった頬も少し潤んだアメジストの瞳も隠されてしまう。その邪魔な両手を包みこむように握りしめて顔の前からどかさせる。
「ねぇ、折紙さんはぼくのこと好き?」
「分かってる癖に聞かないで……」
 近くにいるのに耳をすまさないと聞こえないくらい小さな声だったが、折紙さんはそう答えてくれた。正直、嫌われていない自信はあった。だからつまり、これは、きっとそういうことなのだろう。
 すごく嬉しくなって、ありがとうと叫びながらぼくより一回り小さい身体をぎゅっと抱きしめたら、可愛らしい悲鳴があがった。

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